出典:建築技術 2019年10月 特別記事「建築検査学とIT/AIの融合」(著 大場喜和)

はじめに

本誌の2009年10月号に『既往の「建築学」に「検査」という言葉を入れただけの事だが、意味も目的も異なる異質の学問としての「建築検査学」を提起する。先稿1として、「建築検査学」について、その概要を発表したが、その目的は繰り返される業界の不祥事等に対して、業界内部の自助、自浄作用を支援することが大きなものであり、この目的をきっかけとして、「建築学」全体に対しての包括的・横断的、設計・施工、支援としてのツールとして、また、種々の設計・施工の場面でのリスクマネージメント情報のデータベース化を計ることを目的とするものである。』として、新連載をスタートさせて頂いた。

それから早くも10年が過ぎたが、筆者は相変わらず検査業界でもがいてきた。齢68で古希を2年後に控え、この10年を振り返るのではなく、まだ現役としての現状をお伝えしたい。

 

「建築検査学」の役割

バックナンバーを見て欲しいが、連載での抜粋を記載する。考え方は現在も全く同じである。『基本的には、「建築検査学」は既存建物検査・検証において発覚した、新築時に起因する瑕疵・不具合等を、新築時の設計・施工上の発生防止支援として、フィードバックすることであり、既存建物については、維持、管理、点検、修繕の観点からいかに適切に長期的に存続させるかを提案、提言することである。

具体的には、新築の設計、施工にしか係わらない技術者は、その建物の数年後、数十年後の状況を知る由もなく、瑕疵、不具合、過剰劣化が設計や施工のミスや不適切さ、配慮不足等に起因している事も理解されていない。これらの現実を踏まえ、新築設計、施工において、将来発生する可能性のある瑕疵、不具合、早期劣化要因(既存建物検査、検証から判明した)を極力排除すると共に、建物性能向上の為の「住宅性能評価」や「CASBEE評価」等の第三者評定、評価を併せ実施することである。

既存建物においては、新築後の所有者等による建物の維持、管理、点検、修繕等の適切な実施の誘導や、第三者による定期検査調査体制の確立により、建物の長期利用の為のトレーサビリティシステム構築を的確に実行することである。

而して、建物の新築時、存続時において、「建築検査学」の実行が無駄の少ない効率の良い設計・施工・維持を支援し、建物の長寿命化を促進することで、大きくは低炭素社会・エコロジー等にも貢献できるものと期待する。』と記したが、実務レベルではそれ程意識が変わったということもなく、相変わらず表層的調査をルーティンワークのごとく繰り返す検査機関がほとんどのように見える。

 

建築検査学」とIT/AIの融合

この10年間でも、幾つかの建築業界の不祥事は発生している。

前項に10年前に発表した「建築検査学」の趣旨を抜粋記載したが、この10年間で最も進化した検査テクノロジーの一つとしてドローンが挙げられる。(一般の検査手法は基本的に進化してはいない。)

筆者はドローンの建築検査への導入時から関わってきたが、検査ツールとしてのドローンの可能性は後述のとおりである。

ドローン搭載可視カメラ・赤外線カメラによる建築検査の変遷は、これまでに執筆1)2)3)・セミナー等で発表してきたので、ここでは現況について述べる。

  この2年ほどでドローン搭載可視カメラ・赤外線デュアル化が標準仕様となった機種が登場し、筆者らの手作りのデュアルカメラに比し安定性が増したことは一つの革新といえる。その他筆者が導入初期から提唱してきた、自律飛行に関する技術も進み、GPS依存の自律型から、Visual SLAMやLiDAR SLAM等の可視センサーやレーザー計測による自律飛行システムが確立しつつある。

 また、日本システムウエア㈱の開発した「ドローン搭載可視カメラによるひび割れ自動検出システム」については筆者も実証実験立会や精度向上・建築外壁検査における報告書作成ソフト開発までの実用化研究に参加している。現在筆者が取り組んでいる「赤外線自動分析・報告書作成システム」は同社と共同研究中であり、数箇月で基本システムは完成の予定である。また、「LiDAR SLAM」を活用した各種検査への応用システムについては、同社及び東北大学との共同研究として進めている。内容については後述する。

 

ドローン建物調査の活用

ドローンのハード・ソフト面での進化は前述のように急速に進んでおり、それらを想定した実務としての検査手法が喫緊の課題となっている。

次に、現状の建築検査におけるドローン検査の具体的有効活用方法について示す

1) 既往検査における具体的活用法

①既存ビル等の外壁・屋根検査については可視カメラ(4K)による詳細な不具合・劣化状況調査と赤外線による、漏水・仕上げ材の浮き等の検査を実施し、進入可能な範囲での目視・触診・打診調査を併用することで精度の高い検査が効率的に実施可能となる。(施設課のある病院・学校・役所等へ検査要領策定・提供による活用拡大)

②既存戸建等の屋根検査でも、可視カメラと赤外線カメラの併用で前記同様の検査が可能となる。

③新築施工検査では、既にゼネコン等がドローン検査を実施していると仄聞するが、更に拡大が期待される。

④基準法の定期報告では、外壁の検査は赤外線による検査を認めているので、基本的に対応可能ではあるが、実効性の面から、定期報告と併せた付加価値のある、維持保全に有効な検査システムの策定が必要と考える。(大規模修繕のための事前検査等との組み合わせなど)

⑤住宅性能評価(既存)は実質的には普及が進んでいないので、ドローン導入による話題性と実効性の向上で普及促進に寄与する可能性がある。

2)ドローン導入による新規検査

①既存擁壁検査については、目視・進入可能な範囲で実施はしてきたが、ドローン活用で調査可能範囲が拡大し検査利用の拡大が想定される。

②タワーパーキングについては実証実験済みで、最もドローン検査に適した建物形状である。

③高所の袖看板等の劣化等調査(取り付け部劣化・腐食等による落下事故が発生している)