「建築検査学」の体系化に向けて

既往の法・制度の検査・調査の概要

1)建築基準法の検査は、前項に示したように建物新築時の法的検査は特定の資格者に限られ、また一定の検査手法が公的に存在するので、本稿の対象ではないが、後述する新規検査手法の中で革新的手法として扱う。

法第12条の定期報告のための調査については、他の任意検査・調査とリンクする部分が多く、建物の現状について安全性や遵法性を検査・調査をし、行政に報告するために行う。

特に近年外壁タイル等の剥落事故を受け、外壁の調査には目視外の赤外線等を利用した調査手法が採用されている。

2)消防法に係る検査・調査は行政職員の専任業務であり、ここでは対象外とする。

3)耐震改修促進法に係る診断・調査は旧耐震基準で設計された建物の耐震性を確認するもので、新耐震基準における耐震性レベルを確認するが、

国土交通省告示184号:耐震診断及び耐震改修の基本的方針による確認も有る。

簡易診断法・一般診断法・精密診断法が有り、非破壊検査のみならず、破壊検査も取り入れ、本稿の各種検査・調査の中でも、研究成果も多く採用され最も信頼性の高い検査・調査方法と言える。

4)住宅品質確保法に基づく住宅性能評価は、当該品確法の住宅性能表示制度に基付く評価基準に従い、設計住宅性能評価、建設住宅性能評価(新築・既存)において、必須項事項と選択事項の各等級について図面審査や現場検査を行い、申請書の等級に該当するか否かを評価し、評価書として交付するものであり、登録住宅性能評価機関のみに認められた業務である。

検査・調査の基本理念・調査方法等が一義的に策定され、現在の民間の多くの検査・調査の原型とも言える。

但し、他の連携法・制度の改正等にも連動するので、常に見直し等の対応が要求されている。

審査・調査は登録機関の評価員が行うことと、評価員には公務員と同様の「守秘義務規定」「贈収賄罰則規」定があり、評価の公平さと適正さは担保されるものの、基本的に目視と進入可能範囲に限られるため、任意の検査・調査の精度に及ばないとの見方もあり、改善の余地は多くあるものと思われる。

5)瑕疵担保履行法に基づく住宅瑕疵担保責任保険制度の加入に係る検査は、各保険法人が定めた保険加入検査基準に従い、各保険法人の講習を受け登録した現場検査員が、各部位ごとに検査基準に定める方法(目視、計測又は非破壊検査)により行う。

一次的簡易検査よりは計測・非破壊検査等が導入されている分、検査精度は高いものと思われる。

6)省エネ法に基付く省エネ診断は、届出義務の診断等では建築物調査員制度も策定されたが、住宅性能評価の断熱等性能等級・一次エネエルギー消費量等級、長期優良住宅認定制度、長期優良住宅化リフォーム推進事業、フラット35の技術基準等で同等の診断が行われるが、其々の制度の規定する資格者等が業務を行なっている。診断基準・手法等に関しては現在国交省で鋭意検証中である。

7)長期優良住宅促進法に基付く認定や補助事業の認定等の審査は、基本的に住宅性能評価の主たる項目の上位等級を対象とするので、主に住宅性能評価機関が実施している。

8)住宅金融支援機構標準仕様書は、フラット35の適合基準を定めたもので、目指を前提としているが、公的融資に関わるため、一定の厳格さで適合判断することが求められる。

住宅金融支援機構と契約した建築士事務所の建築士や住宅性能評価機関の評価員が適合検査を行なっている。

一定の検査精度は担保されているものと思われる。

既往の任意の検査・調査の概要

1)既存住宅状況調査制度は宅地建物取引業法の改正により制度化されたものであり、建物売買契約時の重要事項説明の際に、宅建業者が調査(インスペクション)の結果を買い主に説明することを目的として制定された。建築士の中で「既存住宅状況調査技術者」として登録したものが、既存住宅の調査部位ごとに「劣化事象の有無を調査し報告書等に纏める。目視前提で進入可能な部位に留まり、一次的簡易調査の典型と言える。

2)安心R住宅制度は、民間の「特定既存住宅情報提供事業者団体」登録規定に基づいたものであり、基礎的な品質確保のために更新すべき部位、既存を活かすべき部位等を判断し、住宅リフォーム工事の内容を具体化するベースとするためとされている。

宅建事業者が「安心R住宅」の基準に適合しているか調査し、「安心R住宅調査報告書」を作成する。

これは建築に係る資格者では無いものが実施する一次的簡易調査である。

3)リノベーションR住宅は民間の「リノベーション住宅推進協議会」の統一規格として策定されたもので、

統一規格に従いリノベーションされた既存住宅を「適合リノベーション住宅」と規定、R1住宅(マンション専有部の統一規格)、R3住宅(R1住宅基準と共有部分の一棟全体の統一規格)、R5住宅(戸建住宅の統一規格)に区分され、主に事業主が自ら調査を行い、事務局に申請し認定される。調査内容はかなり詳細に規定されているが、調査を実施するものの資格や技術レベルに関しては明示されていない。

4)以下は筆者が長年実施してきた任意の検査・調査である。

*旧住宅検査保証協会より引用

1.建物総合調査(戸建・共同住宅)

主に買取り再販事業者の依頼が多く、遵法性から構造・設備等建物全体にわたり、目視・計測・非破壊等総合的に検査・調査をして、当該建物の現況における安全性や不具合・劣化状況を判断し、対策まで提言する。

2.新築検査(戸建・共同住宅)

基準法の抽出検査で看過することの多い施工不良等を各工程の全数検査で発見し是正することで、新築時の瑕疵・不具合を排除するための検査。

3.裁判事件等鑑定検査

業界で発生する多くの瑕疵・不具合等で裁判事件に発展したものの、任意鑑定検査であり、検査・調査の知見・経験値が問われるため、より高度で精度の高い検査が求められる。

4.項目別特殊検査

・法的合成検査

既存建物が現行法に適合しているか否かの検査、近年国交省のガイドラインで検査済み証のない既存建物の有効利用の際多く利用されている。

・構造計算書等審査

構造計算書の再審査であり、過去の耐震偽装事件等の不安の払拭等のために行い、前記総合検査では必ず行う検査である。

・有害化学物質当検査

ホルムアルデヒド・エチルベンゼン・トルエン・キシレン等の室内空気中濃度を測定する。

性能評価の項目の一つであるが、多岐にわたる検査要求が有る。

・漏水検査

戸建・共同住宅共に良くある検査で、

漏水の原因を究明し、参考補修方法を提示する。

・鉄筋探査検査

コンクリート躯体に貫通孔を設ける場合や躯体の一部を破壊する場合等に鉄筋の配置等を確認する。

・アスベスト環境検査

図面審査や目視による現況検査及び分析検査を行う。宅建業法の重要事項説明書の記載事項

・基礎現況調査

基礎コンクリートの圧縮強度、配筋検査、中性化試験を行い、ひび割れ等不具合の原因究明を行う。

・擁壁現況調査

ひび割れ等の原因究明及びコンクリートの安全性を検査する。

・遮音性能調査

戸建や共同住宅の界床・界壁の防音・遮音性能調査を行う。性能評価の項目の一つ。

・騒音調査

建物周辺環境や近隣工事等による騒音等の測定調査を行う。

 以上、現在実施されている各種検査・調査に係る現況とレベル感を述べたが、今後これらの共通性の取りまとめから、本質論を展開したい。

おわりに

本稿では「建築検査学」体系化に向けた方向性をしめすつもりであったが、既往の検査・調査の概要羅列に終わった感が否めない。しかしながら、これらの取りまとめと見直しから体系化が促進されるものと考える。

参考文献

1)大場喜和:「建築検査学」建築技術200910月号~20109月号