「建築検査学」の体系化に向けて

「建築検査学」学問としての体系化

連載最終号で[「建築検査学」は実務のうえに成り立ち、純粋学問としての基礎研究ではないので、この整合性若しくは融合性において困難を極めている。

「建築検査学」学問として成立する為には、「建築検査学」学問としての有用性を証明する必要がある。しかしながらこのデータベースとなっているのが日常業務としての実務であり、純粋な実験・検証データでないところにも問題があるのかも知れない。実務としての建築検査は、商取引のうえに成立している。中立・公正な立場での純粋検査を目指していても、建築業界の中における受発注の商行為であることに変りはない。そこか業界において、横断的・包括的かつ関連領域の情報伝達のハブ的存在としての「建築検査学」は成立し得ないのだろか?

こう書くと、いかにも筆者の「建築検査学」が主体のように聞こえるが、残念ながらそうではない。何度か述べたが「建築検査学」は「建築学」の一分野にして従属的な存在として黒衣であり主役たり得ない。]

と記しているように、10年を経た今でも建築学の一分野にもなっていない。

 従って、建築学の分野としてではなく、実務レベルの実学として体系化せざるを得ない。

 

「建築検査学」の体系化

 体系化に当っては、概念論と具体論に分ける必要がありそうだ。

また、前述のように国交省の展開に足並みを揃え、住宅に係る検査・調査の体系化を先行したい。

住宅に係る検査・調査は法制度に基づくものと、民間の任意調査が有り、これらの理念・手法等は必ずしも一致しない。なぜならば、検査・調査の目的が同一とは限らないからである。従って、それぞれの検査・調査の制定趣旨から見直す必要がある。制定から何年も見直されず、現状とズレが生じているものは目的から見直す必要もある。

既往の検査・調査を伴う法・制度の目的・理念

1)建築基準法は、強制義務として人が健全に生活する場としての建物の耐震性・耐久性・健全性等の最低の基準を定めたものであり、通常の生活の場としての人の生命・健康に関する要件が設定されている。

 本法は、大きくは「単体規定」と「集団規定」に分れ、「単体規定」が建物そのものの安全性・耐久性・衛生性等の基本的権利・義務・制度を定め、施行令において具体的基準が示され、規則では手続き関係等が示されている。また、告示では更に詳細な具体的内容が示され、政令で定めた地方条例等は法的効力を持つ。

従ってこの基準を遵守することは日本の全ての建物の最低の義務である。

検査としては、基準法第6条に係る確認申請時の図面審査と第7条に係る施工中の現場検査と施工完了時の検査があり、行政と指定確認検査機関が法に基付く検査をしている。

また、完成後は用途・規模により同法12条に基付く定期調査による報告が所有者に義務付けられているが、この調査は建築士や定期報告に関する調査資格者が行う。

2)消防法は、基本的には火災の予防に関すること、危険物の貯蔵や取り扱いに関すること及び消防設備等に関する義務・制限等を定め、火災の警戒、消化活動、火災の調査に関することに加え、救急業務として、事故・災害等における救命・救急搬送活動等について定められている。

 消防法でいう防火対象物や消防対象物は、建築物、工作物、これらに属する物件に限らず、山林や船、船舶、車両等が該当する。

 建築物では、消火設備、器具、避難器具、非常警報、排煙設備等が義務設置や定期点検の対象となっている。検査は基準法確認申請時に消防同意としての図面審査と完成時の完了検査があり、消防署職員のみが行う。

3)耐震改修促進法は、建築関連法では比較的新しく平成71027日の制定である。

 本法は制定年(1995年)から分かるように、この年の117日の阪神・淡路大震災を機に急遽立法・制定された。条文としては第1条から第16条までの簡便な法律である。耐震診断・耐震改修の指針については、第2章第3条に定められ、具体的には、告示「平7建告第2089号」及び「平7建告第2090号」として公表されているが、実務的には、(一財)日本建築防災協会発行の各構造別の「耐震診断基準」や「耐震改修設計指針」等を利用することになる。

 一般に建築士事務所の建築士が耐震診断や補強設計を行なっているが、評定が必要な場合は、評定機関での審査を要する。

4)住宅品質確保法は、1990年代の欠陥住宅問題等を受け、2000年に創設された法律であり、強制力はもたないが、基準法より上位の品質を住宅に求める消費者のための基準も策定されており、住宅の品質を個別に比較できる等級が設けられている。この制度は後述の住宅金融支援機構のフラット35や瑕疵担保履行法等の基準にも準用されており、住宅性能を比較検証できるシステムである。

 誰でも評価はできるが、評価書の交付のための評価は登録住宅性能評価機関の住宅性能評価員資格を有する者が行い、図面審査や現場検査がある。

5)瑕疵担保履行法は、耐震偽装事件による被害建物の改修・建て替え等において、販売・建設事業者の倒産等によりその損害が担保されなかったことを受けて、フランスの「スピネッタ法」を基に既往の民法・建設業法・不動産業法・保険業法・品確法との整合を図り、急遽策定されたもので、施行時から5年目の見直しを前提(明文化)としていた稀な法律でもある。

 当該法は、主に特定住宅瑕疵担保責任として、「構造耐力上主要な部分の瑕疵」と「屋根・壁・開口部周りからの雨水浸入」に係る住宅事業者等の瑕疵発生時の賠償責任としての資力の確保を、保険・供託により担保することを義務付けている。当該法により創設された保険法人は、保険加入時に課する基準として、建築基準法を前提として、品確法・学会指針等を準用した一定の独自基準を策定している。

加入のための検査は各保険法人と契約した現場検査員が行なっている。

6)省エネ法は、2015年に省エネ基本法として、これまでの省エネ法を総括した法律となった。

世界的低炭素化推進の中で、急速に住宅にも浸透してきた制度でもあり、一定の法的義務化も課されるようになっている。

一定の規模により省エネ対策の届出義務があるが、届出書の作成は一般に建築士が行なっている。

7)長期優良住宅促進法は、高度経済成長期のスクラップ&ビルトと言われた20年程度の短寿命の住宅生産環境から、現状の成熟経済期と言われる時代に即し、また欧米先進国の長寿命住宅に習い、住宅寿命の長期化を図り、低炭素化に資する長期優良住宅の生産環境を整備するために創設されたものである。この基準にも前述の住宅品質確保法の上位基準が準用されている。

認定基準は、主に品確法の等級基準が準用され、耐震等級規準、省エネ基準、劣化対策基準、高齢者対策(バリアフリー性)、維持管理・更新の容易性、可変性、維持保全計画、居住環境、住戸面積の各基準を満たし認定されることで、所得税(住宅ローン控除)・登録免許税・不動産取得税・固定資産税において優遇措置を受けられる。

検査については、補助事業と認定制度があり、一部行政が担い、技術的審査は住宅性能評価機関が行なっている。

8)住宅金融支援機構標準仕様書は、対象建物の融資上の担保性に重点をおいて策定されたものであり、既往研究の成果である建築学会の標準仕様書や近年では住宅性能評価制度の等級基準等も取り入れ、支援機構独自の仕様(省令準耐火等)もあるが、建物の担保性を基準としており一定の水準は担保されていると言える。

検査については、図面審査と現場検査があるが、支援機構と契約した建築士事務所の建築士や住宅性能評価機関の評価員が検査を行なっている。