「建築検査学」の体系化に向けて

出典:建築技術 2019年11月 「「建築検査学」の体系化に向けて」(著 大場喜和)

はじめに

本誌先月号の特別記事に「建築検査学とIT・AIの融合」と題して10年ぶりに「建築検査学」について書かせて頂いた。それは本誌に1年間連載した「建築検査学」の10年後の今の「建築検査学」について述べたものだが、その連載の最終号の「おわりに」で次のように述べている。[一年をかけて「建築検査学」の体系化はならなかったものの、「建築検査学」を提起した背景や思い、またその方向性は示せたと思う。ただ、先月号で述べた「建築検査学」の領域や定義づけについては、もっと明確にしていくことが極めて重要な要件であることを認識した。発想当初、建築検査に係る事は全て領域(検査学の)であると乱暴な考えを持っていたが、領域論は「建築検査学」成立の為にも不可欠の要因である。隙間学としてなら隙間を探さないといけない。粘着学や寄生学としてなら粘着・寄生する場所を探さなくてはならない。どこにも関与しない浮遊学としてが最も気楽そうだが、多分そう上手くはいかない。「建築学」の各分野に粘着・寄生する為に、頭を下げて回っている間に、筆者の寿命が尽きる。ここは大胆に自らのテーゼに従い、研究・発表し、各方面から叱責を受けながら修正主義的立場で日和見主義を貫き通す覚悟である。現状の実務においては、各方面で「建築検査学」的観点に立った各種検査が評価されているし、大学の研究においても、産学共同のプロジェクト等でクリエイティブ集団をアシストするその有用性に注目が集まっている。
今回はその1年間の検査に関する各論を10年の実践を経て、また、新規検査手法の展開を併せ体系化を目指す。

 

「建築検査学」の役割

本稿を読む前に、10年前の連載のバックナンバーを見て欲しいが、「建築検査学」に関する理念・考え方は現在も全く同じである。『基本的には、「建築検査学」は既存建物検査・検証において発覚した、新築時に起因する瑕疵・不具合等を、新築時の設計・施工上の発生防止支援として、フィードバックすることであり、既存建物については、維持、管理、点検、修繕の観点からいかに適切に長期的に存続させるかを提案、提言することである。』と記したが、この10年の間、実務レベルではそれ程意識が変わったということもなく、相変わらず表層的調査をルーティンワークのごとく繰り返す検査機関がほとんどのように見える。
 そうした中、国交省は、これまで策定されてきた「住宅性能評」「長期優良住宅」「瑕疵保険」「フラット35」「住宅状況調査」等々の検査・調査及び任意の各種民間の調査について、そもそも論的な観点から特に住宅に特化して、検査業務を目的別に比較整理して統合化の上制
度化し、検査業務の適正化・効率化や消費者・宅建業者等の信頼性・利便性を向上させようとの趣旨で、検討を始めている。
 良くぞこのタイミングでと言いたいくらいに筆者の「建築検査学」体系化着手と一致してしまった。 「建築検査学」の理念が正に各種検査・調査を横断的・包括的に学際的協力を得て研究し、成果を実務の現場にフィードバック、更に現場から得られるデータを研究に還元するサイクルの構成による、検査・調査業務の適正化を目指すものである。